小咄未満。全てフィクションです
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6. 暴露



 
 
6. 暴露


 「バラされたくなきゃ、あたしと付き合って」と言うので恭子と付き合い始めた。何をバラすつもりだったのかは知らない。心当たりなんてあるようなないような。それに恭子の顔は悪くない。
 三限目の現国はウザいからサボったが、それが二限目の数学とどう違うのか俺には分からない。だけど、俺は二限は教室にいた。別に授業を聞いてたわけじゃないけど、何で出る気になったんだろうか。そんなどうでもイイ事が頭を巡ってく。どうもこの季節は眠い。
 保健室のオヤジは話の分かるおっさんで、だるだるの俺を何も言わず寝かせてくれる。ありがたい。単に見放されてるだけかもしれない。別にそれでもいい。要はベッドだ。
「お前って、時々生きてんのか死んでんのか分かんねーよな」
 オヤジが話し掛けてきたと思ったら、そんなことを言う。馬鹿みてえ。俺は毛布を引き寄せて、中に潜り込んだ。窓から光が眩しい。
「時々じゃなくて、いつも死んでる」
 ていうより、何を生きてるってのか分かんねえ。教室でぎゃあぎゃあ騒ぐ?そんで、セイシュンの汗を流す?そういうんなら、俺は生きてた事なんてない。
「いい加減、やる気のない高校生も多いが、お前は中でも一等だな。もっとないのかよ。勉強とは言わねーけど、せめて女とかさ」
「オヤジ、うるさい」
 返事するのもめんどくて、一方的に話を切り上げて、目を瞑った。オヤジはそれ以上何も言ってこない。ようやく放っといてくれる気になったらしい。最初からそうしてくれりゃいのに。そういや、このオヤジはもう白髪混じりのくせして独身らしい。人に言う前に、自分がなんとかしろって話だ。
 ああ、眠い。眠いのに、寝れない。毛布を頭から被ってんのに、瞼の向こうから光が入ってくる気がする。うざい。
 
 そんな俺だったけど、いつの間にか寝てたらしい。あんなにイライラしたのに、眠った瞬間は分からないなんて何か馬鹿にされた気分だ。世界中の羽毛布団が俺へ腕を広げてる天国の向こうから、うるさい声がすると思ったら、恭子だった。俺のふわふわなヘブンは無理矢理奪い去られる。
「佑介、起きてよ。もうガッコ、終わったって」
「俺の羽布団…」
「何言ってんの。佑介が帰んないと、センセだって迷惑だよ」
 俺は起こされるのが迷惑だ。そう言ってやりたいけど、恭子に百倍くらい言い返されて、それに反論する気力なんてないと分かってるから止めとく。恭子は、なんか教室に放ってた俺の上着と鞄まで持ってきたらしい。ご苦労なこった。
「おー、なんか世話女房みたいだな」
「センセ、なんか口調がエロい。オヤジっぽいし」
 オヤジが適当な事を言って、それにまた恭子が適当な事を返してる。暇な奴等だ。
「江田、お前、こんないい彼女がいるんなら、もっとまともになれよ」
 なんかもっと気の利いた言葉が出ないんだろうか、このオヤジ。
「やだなーセンセ。佑介はこれがいいんですよ」
 ケタケタ笑う恭子を放って、俺は保健室を出た。部屋ん中と違って明かりのついてない廊下は、なんか肌色に薄暗い。保健室に来た時は明るかったのに、ちょっと見ない間に世界が変わってた。こうやって、だれた俺を取り残して勝手に周りは変化してく。
「佑介、ダメじゃん。ちゃんと上着着なきゃ、風邪引くよ」
 追っかけてきた恭子が、俺が腕に引っ掛けたブレザーを勝手に奪って肩に着せる。こいつは、やたら俺の世話を焼きたがる変な奴だ。まあ、俺と付き合いたいなんて言うあたりからして、キテレツだ。キテレツ大百科のキテレツ。そんな漫画が昔うちにあった。
「なんで俺と付き合おうなんて思ったわけ?」
「トートツだね」
「あんたが俺に言ってきたのも、トートツだったじゃん」
 ほとんど話した事もなかった、ていうか俺はクラスの連中の誰ともそうだけど、そんな恭子が何で俺なんかに興味を持ったんだろうか。恭子は別に普通の女だ。あんまり群れたりはしてないけど、他の奴らと騒いでる事もあるし、なんか部活も入ってた気がする。俺的に言う「生きてそう」ってやつだ。
「なんか生きる気力がなさそうなトコが好きだったから、かなあ」
「ふーん」
「何言っても、そういう反応なトコとか」
「そう」
 まあ、人の好みはそれぞれだ。理解出来ないからなんて、追求するのはアホらしい。俺が俺と付き合うわけじゃあるまいし、恭子の事なんだからこいつの勝手にすればいいんだ。
「佑介は、否定しないでしょ」
 だけど、恭子はまだ言いたい事があったようだ。腕にかかる体重が重くなって、俺は仕方なしに、しがみついてる恭子に目を向ける。
「なんだよ」
「佑介は寝てばっかでダレててガッコいないし人嫌いだけど、代わりにダメな奴って、人の事をバカにしたりもしない」
 そりゃ、俺がダメ人間だからだろ。つーか、嫌うほど人に興味なんか持ってない。だから、正直にそう言ってやった。
「そうでもないよ。佑介はダメじゃないし、そんなに人に興味がないわけじゃない」
 何故か確信に満ちた感じで、恭子が断言する。その自信はどこからくるんだ。俺はそんな風に言われるようなことなんて、こいつのために何一つした事ないような気がするんだが。
「なんかヘンな夢でも見たのか」
 恭子は嬉しそうに俺の腕をブラブラさせてる。いや、変な夢を見たのは俺の方か。あの羽布団ドリーム。柔らかそうな中綿が俺の理想だった。人間なんていなくていい。俺はあの世界で生きていきたい。
「佑介があたしに、少しでも興味を持ったのが嬉しい」
「他に話題がなかったからだろ」
「じゃあ、あたしのために、話題を考えてくれた事が嬉しい」
 へこたれない女だ。こういうエネルギーがセイシュンって奴なんだろうか。俺には縁がなさそうだ。
「佑介はさ、たとえダメでも、失敗しても、寝てばっかでも、あたしの中ではパーフェクトなんだよ」
「意味わかんねえ」
 にっこにっこと言うのがぴったりな笑い顔で、恭子が言う。そのほっぺたは柔らかそうで、俺が逃した羽布団にちょっと似ていた。保健室の固いベッドよりは寝心地が良いかもしれない。
 そういえば、こいつが握ってるつもりの俺の秘密って、一体何だったんだ?
 どうでも良かったはずの事が、少しだけ知りたくなった。


+++

眠いです。
文体チャレンジ。
人は褒めて育てろ。


テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


【2006/01/09】 | お題 |

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