小咄未満。全てフィクションです
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螺旋階段



姫君は、そのお城の高く、高くに住んでいらっしゃいました。
大変に美しい姫君です。
金絲の髪に、空の瞳。
春の花のつぼみにも似たその唇。
姫君に剣を捧げたいと望む騎士は、後を立ちません。
けれど未だ、その剣に姫君の祝福を受けた男性はいませんでした。
一人の騎士がまた、姫君に恋を致しました。
まだ若く、その若さに相応しい凛々しさに溢れた青年でした。
しなやかなその体は、多くの貴婦人を彼の虜にしましたが、
青年にとって、姫君が初めての恋でありました。

高い、高いお城の塔の天辺で、
彼は姫君の前に跪いて誓います。
「この剣は貴女だけの為に。
如何なる悲しみも、如何なる絶望も、
もはや貴女の前に立つことはございません。
私の想いで、全てを取り除いて御覧にいれましょう。」

若い騎士の愛の言葉に、姫君は唇を綻ばせました。
見蕩れる騎士に、姫君は鈴のお声を返されます。
「騎士様。あなたのお言葉、大変に嬉しゅうございます。
けれど、殿方を愛するに臆病なこの罪深き娘に、
ひとつ、あなたのお心の真を見せては頂けませぬか。」
如何様にも、と青年は答えました。
如何様にも、貴女の御心のままに。

「百日の間、一日も欠かさずにこちらへ参られて下さいまし。
たとえ何があろうとも、決してお休みになられずに。
わたくしはその百日目に、あなたの剣に祝福を捧げましょう。」

易き事だと思われました。
若いと言えども、幾度もの戦場を駆け抜けてきた足でした。
たとえこの高き城が、天に昇る塔であろうとも、
姫君の心を得るためであれば、
青年は登ることを厭わなかったでしょう。

その日から、毎日城の塔の螺旋階段を登り続ける
騎士の姿が見られるようになりました。
雨の日も。
風の日も。
嵐の日も。
恋しい姫君からの祝福のために、
騎士は階段を登りました。
それになにより姫君の部屋での優しい語らいの一時は、
青年にどんなつらさをも忘れさせたのです。
日々、姫君は違う顔を見せて下さるように思われました。
その美しい横顔を知れば知る程に、
彼は姫君に惹かれて行くのでした。

けれど。
九十九日目の朝、隣国との戦が始まりました。
勝機の見えぬ戦争でした。
若い騎士は祖国の為に、戦いに赴かねばならぬ身。
そして戦いこそが騎士の誉れでした。
明け方、旅立つ前に青年は姫君の元を訪れました。
「姫君、この国と貴女をお護りするために
わたしは今日、戦へ赴かねばなりません。
明日はこちらへ参る事ができそうもございません。
明日で百日、ですがこの一日を免じては下さりませぬか。」
彼は、戦に姫君の祝福をもって向かいたかったのです。
それは勝利の女神の口付けよりも、
青年にとって価値あるものでしたから。
そして、この九十九日の間に姫君との間に
確かに生まれたと感じた親愛の情にかけて、
彼は姫君の優しい言葉を信じました。

姫君の応えは、思いもかけぬものでした。
「たとえどんなことがあっても、と申したはず。
百回のおとないがなければ決して、
あなたに愛は与えられません。
わたくしの祝福が欲しいなら、
戦に赴くのをお止めなさい。」
「何を申されるのです。
国と愛しい方をお守りするために戦うが
騎士の役目と心得ます。
貴女は私に騎士の誓いを捨てよ、と仰るか。」
「わたくしの愛を望むならば」

騎士は戦いへと赴きました。
姫君は後へ残されました。

残された姫君は。
ひとつぶ。透明な涙を零されました。

***

やがて戦が終わり、この国は勝利しました。
騎士団は華々しい凱旋を遂げ、
あの若き青年は、敵の将を打ち取った騎士として
名をあげ、皆に称えられました。
彼に開かれぬ門戸はないように思われました。
誰もがこの若き英雄を歓迎します。
王でさえも、この凛々しく勇敢な青年を好みました。

ところが、たった一つだけ。
青年に開かれぬ扉がありました。
彼が最も望んだ扉でした。
けれど。幾度呼び掛けても。
その奥に住まう美しい人は、もう二度と
彼に姿を見せてくれることはありませんでした。

***

やがて月日が経ち、
姫君はある方のもとに嫁がれました。
その方は騎士でありませんでした。
その方は姫君に捧げる剣はもちませんでした。
けれど、姫君と共にずっと、
高い、高いお城の上で優しい時間を送られました。

かの騎士は、護国の英雄として、
数々の戦で名を馳せました。
そうして。一体何時の戦でございましたでしょうか。
敵の剣に命を散らせ、
二度とお国へ帰ってはいらっしゃいませんでした。

かつての姫君はその報を聞かれて、
かつて城の長い長い螺旋階段を登ってきた若き騎士を思い出し、
ひとつぶ。透明な涙を零された後、
御夫君の暖かい胸元にお顔を埋めになりました。

 

 遠い国の物語でございます。


2003/6/13

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女心って、こんなものだと思います。

三年前くらいに書いた話。
なんとなく気に入ってるので、サイト抹消にあたって移動してみました。
しかし、昔からロクな話を書いてません。



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【2006/01/12】 | もう一つの童話 |

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